Introduction to 迴,
ᏗᎷᏰᎥᎥᏋᏁᏖ Music,
and Sound Technology
"迴" (ホイ) という謎のエンティティーについての研究は、1960年代から学者たちが提唱していたサウンドスケープ研究と、後ほど音楽家からのアプローチである環境音楽の裏側に潜んでいた。世間に知られずに研究し続けてきたが、迴の複雑な生態及び技術の制限によって、迴にまつわる数多くの謎を解明できず、研究に霧がかかっていた。過去の1年間、私たちは昔からの研究資料を収集、整理をして、今の盛んだデジタル技術と環境のおかげで迴に関する新しい研究を進めてきた。それらのリサーチ資料、歴史、フィールドレコーディングなどありとあらゆるデータをこのサイトでアーカイブしていく予定である。

Acoustic spectrum of a recently observed hui, © the research center of hui, 2020
"迴"とは現実環境とデジタル環境の狭間に出現する、アクースティック・ベースド(acoustic-based)なクリーチャーである。"迴"は実体を持たず、空間中の音の破片やサイバー空間中で漂う「サウンド・オブジェクト」を受容し、自分の体の構造を構成する存在である。違う空間に存在することとその特殊な構造によって、人間は自力で"迴"を感知、認識することは不可能である。しかし、二十世紀最初に"迴"の研究を記載したテキストの中で、ごく稀に"迴"を部分的に知覚できる透聴力(clairaudience)を持つ人間も存在していたということが記載されていた。おそらく最初の"迴"研究者たちの中でもそういった人間がいたと思われる。電気時代以前、"迴"を系統的に研究するための土台であるデジタル技術がないので、透聴力は超能力、心霊現象、あるいは神の声としか考えられなかった。

Ancient Relics, Unknown Author, collection from the Research Center of Hui, c.1326
"迴"の足跡は千年以上に遡ることができる。だが、記録の手段はその時代に制限されていた。サウンド記録技術が発明される前に、主に古代壁画、彫刻、口頭伝承の 民間伝説などが挙げられる(視覚的な部分に関しては、想像で補う部分も多いと考えられる)。そういった遺物は"relics"と呼ばれる。
ᏗᎷᏰᎥᎥᏋᏁᏖ music, notations
"ᏗᎷᏰᎥᎥᏋᏁᏖ music" は"迴"を出現させるためのエキサイターとしてデザインされて、実地演奏あるいは放送する音楽である。"ᏗᎷᏰᎥᎥᏋᏁᏖ music"と言う造語はブライアン・イーノ氏が提出した「環境音楽(ambient music)」を借用し、"迴"が存在する環境のための音楽という意味である。主に近代になってから、ᏗᎷᏰᎥᎥᏋᏁᏖ音楽を設計して迴を出現させ接触するセッション(emerging)が繰り返されたが、現在まで残されたレコーディングとノーテーションは数少ないである。
私たちは各地から収集したᏗᎷᏰᎥᎥᏋᏁᏖ音楽とそのノーテーションを分析し、いくつのデモを作り、それらから新しいᏗᎷᏰᎥᎥᏋᏁᏖ音楽を生成してくれるシステム「prototype⁰¹」をデザインした。自分の古い二台のコンピューターとハードウェアでできたシステムで二週間エマージングを試し続けたが、出現させたのはいくつの微小な波動だけだった。あとから分かったことだが、迴の生態(かれらの構造を考えれば声態と呼ぶ方がふさわしいかも)は極端に環境依存であり、サイト・スペシフィックなエンティティーである。彼らの姿はデジタル環境の影響を受けて常に変化し続けることはもちろん、発生する地理的位置やアトモスフィア、さらにそこでエキサイターとして機能するᏗᎷᏰᎥᎥᏋᏁᏖ音楽の構成、奏者の感情や呼吸(演奏する場合)など様々な要素に敏感に反応し変化していく。現在のデジタル環境の発達と浸透下、迴の構造は無限であり、安定させることは難しいであろう。

Notation of a lost piece of ᏗᎷᏰᎥᎥᏋᏁᏖ music, Untitled, Unknown Author, c.1970

A medieval painting of musicians playing ᏗᎷᏰᎥᎥᏋᏁᏖ music, Unknown Author,
from © the Research Center of Hui collections, c.1389